踊りもたくさんの種類がありますが、衣装もバリエーションが豊富です。理由としては、様々な文化を持った他地域の人々(中央アジア〜バルカン半島など)がトルコへ移住してきて混じっていったからというもの、また、セルジューク・トルコとオスマン帝国が支配地を広げ、その土地の人々と文化を取り込んだというもの、さらに気候風土が多様なため衣装やモチーフの多様性を作ったというものなど、様々な説があり、場所と歴史の結果、ということになりそうです。
トルコのフォークダンスで使われる衣装には、「どこでもこれが必須!」というような、全地域で共通のものはありません。また、舞踊に使われる衣装はいわゆる「民族衣装」とは違い、民俗的要素は取り入れられていますが、舞踊のために各地方ごとに固定化されています。なので、いわゆる「民族衣装(Milli Kıyafetler:国民の衣装;例えば日本の和服)」とは異なり、「Halk Oyunları Giysileri(民族舞踊で着るもの)」と呼ばれています。
ちなみに日本で「トルコの民族衣装」として紹介されるものの多くは【オスマン帝国時代の宮廷風のカフタン(長衣)】や【チフテテッリ用のいわゆるハーレムパンツを履くベリーダンス風のもの】が多いのですが、それも「トルコ全土に共通のもの」を選ぶのは困難というような理由からだと思われます。(ところでこのハーレムパンツ風のスタイルを「ジェプケン」と書いているサイトもあるのですが、それは実際はベスト(上衣)のみを指します…。)
例えばこのセクション最初の写真にあるような、膝の出る半ズボンにブーツという男性衣装はエーゲ海地方のもの。この衣装の場合はゼイベクを踊ります。しかしこちらを「トルコの民族衣装だよ」と紹介されたら、この地域以外のトルコ人は違和感を覚えるかと思います(しかもこちらは一般人の服装ではなく、戦士を模したもの)。
このように、現在では各地方・都市ごとにほぼ固有の舞踊がありその衣装があるというように定められていますが、大まかな地方ごとにはゆるやかな類似性が見られます(例えば黒海沿岸はどこも大体似たような服装)。そして衣装は元々は地元の素材・特産品や手工芸で出来ていたものですが、今は「魅せるためのもの」なので、割と華やかに作られています。色や柄、細かいパーツなどは「コレを絶対使う」と決まっているものと、「こんな感じのもの」(花柄だけど色は決まっていない…など)という大まかなルールがあるだけのものと、どちらの場合もあります。
*各地方の衣装の詳細は、地域ごとの特色のページをご覧ください。
現在のトルコ人の生活の中ではいわゆる民族/民俗衣装的な服は全く着らておらず、楽器奏者や観光関連の方々、または結婚式や結婚前パーティ(クナ・ゲジェスィ)など、イベント時のみに着るものとなっています。
日常の、例えば祝宴などのいわゆる「民俗的な」環境で踊る際は、「よーし、じゃぁハライでも踊るかー!」という感じで、服を着替えたりせずそのままの服で適当な布を持って踊ったりします。
*概説、衣装のセクションで使われている写真は、セマ−のもの以外は全てTurkish Festival in Washington D.C.(2009)にて撮影。
「全地域で共通のものはない」と書きましたように、セットで使われているものはありませんが、パーツで見れば共通のモノがいくつかあります。各地方の衣装のページで何度も出てくるものは、こちらに説明をまとめて書きました。
◆男女共通のもの◆
*フェズ Fes
いわゆる「トルコ帽」。元々はモロッコ近辺で使われていたが、オスマン帝国時代マフムト二世の近代化改革により、ターバンに替わるものとして導入(1829年)。しかしトルコ革命による共和国成立により、旧体制のシンボルとみなされたこと、また政教分離の観点から、1925年に公には着用禁止となる。
筒状・台形の帽子で、色はボルドー(ワインレッド)。高さや傾斜の付き方、付く飾りなどは地方色がある。男性が着用するイメージが強いが、女性も着用する。その場合はスカーフで覆って押さえることが一般的。
*イェレック Yelek
袖なしのベスト。
*クシャック Kuşak
腰帯全般のこと。布地や結ぶ形式は地方色がある。
*シャルワール Şalvar
だぶだぶのゆったりしたズボンで、ウェストにゴムが入っていて足首もしまっている。股下の高さや形状は地域・男女により様々。今でも地方では普通に男女とも着用されている。男性は一般に無地。おばちゃんが小花柄のものをはいているのはとても可愛い。
*チョラップ Çorap
靴下。基本的にはウールで手編み。様々な色柄が編みこまれている事が多く、絨毯同様に地方色やモチーフによる感情表現などがある。
*イェメニ Yemeni
軽い革靴。
*チャルク Çarık
革のサンダルの一種。紐で足首〜脛に括り付けて着用する。靴やブーツの上から履くこともある。伝統的にはこれを履くが、踊りの時は邪魔なので省き、普通の靴を着用することもある。
◆女性もの◆
*エンタリ/ビンダッル Entari/Bindallı
ロングドレスの一種。
*ウチュエテッキ Üçetek
長衣の一種で、字義的には「3枚のスカート」となる。前空きで左右にスリットが深く入っており、腰からスカート状のペラペラとした部分が「後ろ」「前右」「前左」の3枚あるというもの。大概下にシャルワールやスカートを履く。Üçetekと続けて書くこともあればÜç Etekと分けて書くこともある。